Anita Shreve(アニータ・シュリーヴ)の『パイロットの妻』という小説を知っていますか? 原作の英語タイトルは The Pilot’s Wife です。
実は、この本は全米で280万部を超えるベストセラーとなり、多くの読者の心を捉えました。私がこの本を知ったのは、パイロットの妻になってからです。
最初は原文の英語で読みました。パートナーがパイロットという方なら、タイトルだけで気になってしまいますよね。
現在では日本語にも訳されており、日本の書店やネットでも購入できます。この小説は、夫婦間の信頼と秘密、そして人間関係の深淵を鋭く描いた作品ですが、パイロットの妻であれば一度は読んでおきたい一冊です。
今回は、パイロットの妻として『パイロットの妻』を読んだ感想を書いてみました。多少のネタバレを含みますので、ご注意ください。
あらすじ

主人公のキャスリンは、国際線パイロットである夫ジャックと娘のマティと共に平穏な日々を送っていました。しかし、ある夜明け前、ジャックの操縦する旅客機が墜落したとの知らせが届きます。
悲しみに暮れる間もなく、事故の調査が進む中で「ジャックは自殺したのではないか」という疑惑が浮上します。ジャックが飛行機を爆破させた可能性があると。さらに、彼の遺したメモや行動を追ううちに、キャスリンは夫の知られざる一面と向き合うことになります。
飛行機事故の原因を探るサスペンスというよりも、「結婚という形」や「家族の在り方」について考えさせられるスリリングな長編小説です。
感想とレビュー
読み始めたら、最後まで一気に読んでしまいました。私は英語版と日本語版の両方を読みましたが、どちらも読みやすく、翻訳も自然でした。
感情や情景が想像しやすい描写が多く、パイロットの妻として共感できる部分もありました。
たとえば、
夫が家を離れる、という行為。私を置き去りにしていこうとする、辛い瞬間。でも夫の不在が気にならなくなり、彼が帰宅することで日課に変化が生じるのが疎ましく思えることもあった。3、4日たって、また同じサイクルが繰り返される・・・。
この部分を読んだとき、私は結婚当初のことを思い出しました。私も最初は夫の不在を寂しく感じていましたが、今ではすっかり慣れ、それが日常になっています。
小説の著者はパイロットの妻ではありませんが、それでも共感できる部分がいくつもありました。
また、この小説では、愛する人の死と、その後に明らかになる秘密に直面した女性の心理が繊細に描かれています。キャスリンの心情の変化や葛藤がリアルに伝わり、読者は彼女と共に驚きや悲しみ、怒りを体験します。
夫婦であっても、相手のすべてを知ることは難しいというテーマが深く掘り下げられており、読後には人間関係について考えさせられました。
「私は本当に夫のことを知っているのか?」
そう疑問に思う瞬間があるかもしれません。
結婚して、夫婦となり、子どもがいて、幸せに暮らしている現実があるのに――。
キャスリンは、パイロットの妻としての苦労だけでなく、それ以上に過酷な「隠された事実」を突きつけられます。それでも彼女は気丈に振る舞い、どこかパイロットの妻としての強さが感じられました。
パイロットの妻として気になった点
読んでいて「これって本当にあるの?」と思った点がいくつかありました。
まず、この小説では、飛行機事故の後、パイロット組合からロバートという男性が派遣されてきます。
でも、実際にパイロット組合から人が派遣されることなんてあるのでしょうか?
幸い、夫は飛行機事故に関係したことがないので、本当かどうか分かりません。勤務する航空会社のどなたかが私に連絡してくると思います。
また、小説の中では、ジャックがフライト先で別の女性と生活していたことが明らかになります。
実際、パイロットは異なる都市や国で、別の女性と暮らすことは可能でしょうか?
答えは 「可能」 でしょうね。
パイロットは自分の運航路線であれば定期的に飛びますし、IDトラベルも可能で、お金をかけずに行き来できてしまいます。実際、フライト先に恋人や愛人、いわゆる「現地妻」を持つパイロットもいます。もしくは、一緒に飛んだキャビンクルーと時間を過ごすこともあるでしょう。別の顔を持とうと思ったら出来てしまう人もいるかもしれません。
ただ、男性は意外と不器用なもの。
長く二重生活を続けるのは難しく、どこかでバレるか、終わりがくるものです。
それに、パイロットは定期審査や訓練で忙しく、機種変更や就航路線の変更があれば、会う回数も減り、それまでの生活も変わります。仕事のストレスも大きい中で、わざわざ面倒な関係を続けることは少ないのではないかと思います。
とはいえ、この小説のような 乗客乗員合わせて104人を巻き込んだ事故 は、決してあってはならないことですね。
まとめ
『パイロットの妻』は、平凡な日常が一瞬で崩れ去る恐怖と、愛する人の知られざる一面に直面したときの葛藤を描いた作品です。夫婦や家族の関係性について深く考えさせられる一冊であり、心理描写の巧みさと物語の展開が読者を引き込みます。パイロットの妻の心情を追体験しながら、最後まで飽きずに読むことができます。人間関係の複雑さや信頼について、またはパイロットの妻に関するテーマに興味がある方にはおすすめの作品です。